人事コラム

第101回 “CS・ES論争”より大切なもの

“CS(顧客満足)・ES(従業員満足)論争”は20年以上前からあり、昔はCS派が主流でした。「顧客第一主義」「お客様は神様です」という言葉が浸透し、お客様に喜んでもらうために従業員は一生懸命働きました。お客様に喜んでもらえたら業績が伸び、会社も儲かり、給与やボーナスにも反映されて、従業員もうれしいという理想のサイクルがありました。

しかし行き過ぎた顧客満足の追求は弊害もありました。無理な値引き要求や短納期要求、休日の呼び出しなどにも誠実に応え続けた結果、従業員は疲弊し、退職したり、そもそも入社希望者が集まらなくなったりしました。そんな背景から今は圧倒的にES派が増えてきました。従業員の満足度が高ければ、イキイキと働くことができ、お客様へのサービスも向上するという考え方で、CSとは真逆のサイクルです。

しかしそんな単純なものではないと考える人も多くいます。 たとえば、「従業員満足が最も高いと言われている公務員が提供しているサービスの顧客満足度は低いではないか、こんな低レベルのサービスを民間で提供すればスグに破綻する」という意見があります。また、夜の19時にお客様から「明日の朝までに部品が必要になったから届けてほしい」と連絡が入った際、従業員満足を優先し「うちは終業時間を過ぎてるので無理です」と断ったとします。困ったお客様は他の企業へ連絡をし、無事に届けてくれる企業を見つけたとしたら、そこでビジネスチャンスを損失してしまいます。このような対応を続けていると、やがて顧客は離れてしまい経営に行き詰る可能性もあります。そうならないためには、「この会社じゃなきゃだめだ。この担当者じゃなきゃ買う意味がない」と顧客に思わせる競争優位の確立や、従業員一人ひとりの質を高めることが必要です。他社でも提供できるサービスなら顧客は安くて、自社(自分)を贔屓して尽くしてくれる会社を選びます。その市場で勝負している限り、ESを追求すれば顧客が離れていき、CSを追求すれば従業員が疲弊し、ESが下がってしまうという本末転倒な結果になります。

CSかESかの議論ではなく、まず模倣困難で持続可能な競争優位が得られるドメインを設定することが大切だと考えます。

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第102回 離職率の低い会社が、良い会社とは限らない

頑張っている社員と頑張っていない社員、成果を出している社員と出していない社員。どんな社員であれ居心地よく会社に居続けることができる社風は、一見平等に見えるかもしれませんが、頑張っている社員にとってはとても不公平です。

若者雇用促進法が制定され、3年未満の離職率を明示する企業が増えてきました。選択項目であるため、離職率の明示は義務ではありませんが、その数値が低い企業は積極的に打ち出しているため、書いていない場合は、必然的に「この会社は離職率が高いから書きたくないのかな」と疑われてしまいます。求職者にとって離職率は、企業を探すうえで重要な指標であり、その数値が低ければ漠然と「良い会社」と映るため、採用活動において離職率の低さは武器になります。

しかし健全な経営を目指すなら、離職率の数値だけにこだわらず、「誰が辞めて」「誰が残っている」のか、その数値の中身をきっちり見る必要があります。大切なのは離職率の数値ではなく、頑張っている社員、会社にとって辞めてほしくない社員が辞めないことです。仕事を真面目にせずに何も貢献しない社員でも、居心地よく居続けることができる会社なら離職率は低いかもしれませんが、その生ぬるい社風がゆでガエル現象となり、気付いたときには取り返しのつかない経営悪化を招いているかもしれません。

そういった社員は、毎年期待に胸を膨らませて入ってくる新人を捕まえては、「頑張っても一緒だよ」などと吹聴してまわったりする可能性も高く、いくら採用活動を頑張って優秀な学生に入社してもらっても、その社員に毒されてしまっては本末転倒です。そういった社員には、離職率が高まっても、退場していただくのも健全な会社経営には必要です。

世界的ベストセラー「ビジョナリー・カンパニー」でも、世紀を超えて影響を与え続ける一流企業は、誰にとっても働きやすい会社ではない。合わないものは病原菌か何かのように追い払われると書かれています。求職者にも、離職率の低さだけで会社を見ないように指導していきたいです。

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第103回 未来の楽天、サイバーエージェントは生まれるか?

エンジャパンの越智会長は、従業員2,500名の規模になった今でも、新卒採用セミナーに年に60回登壇し、頻繁に「最近の働き方改革は優しさ改革になっている、今こそワークハードすべきだ」と訴えているそうです。

エンジャパンはリーマンショック後に大量リストラを断行しましたが、リストラされた社員は転職市場での価値が高く、 難なく再就職が決定したそうです。それは社員がハードワークで働いていたからだそうです。私たち同業から見ても、エンジャパンの社員はとても優秀だと感じています。

また越智会長はこうも言います。ワーク・ライフ・バランスとは欧州から生まれた言葉で、海外で成長している企業の標語には『ワークハード』が入っている。アマゾン、グーグルアップル、フェイスブック、アリババ、百度、騰訊控股(テンセント)の巨大IT7社は米国と中国の企業で、欧州企業は1つも無いと。こんな話を聞くと、これから更に日本で働き方改革が進んだら日本企業はどんどん世界から置いていかれるのではないかと不安になりますね。

ところが一方で、国は起業も促進しています。果たして、スタートアップ企業がワークライフバランスを保ちながら成長できるかどうか。楽天もサイバーエージェントも創業時は、不夜城と言われるほど社員が夜遅くまで激しく働くことによって今があります。働き方改革の促進で、未来の楽天やサイバーエージェントが誕生するのか、とても興味があります。

また個人のキャリアで考えても、若いうちにワークハードな環境で働くことによって、実力がつき転職市場価値が高まれば、会社に万が一のことがあっても、スグに他で活躍の場が見つかるでしょう。逆にホワイトと言われる環境で20年間のんびりと過ごし、なんのスキルもなく40歳を超えたときに会社が倒産したり、リストラされたりした場合のことを想像すると、ゾッとしますね。

それを思うと越智会長の学生へのメッセージは、厳しいようで、実はとっても愛のある言葉に聞こえてきます。ワークハードは、会社のためだけじゃなく、自分のためでもある。私たちもそんな話を学生へ発信していきたいと思います。

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第104回 「採用担当者が良い人」は当たり前。

採用マーケットは完全に売手市場で(大企業は買手市場)、就活生はどの企業へ行っても歓迎ムードで採用担当者は優しく接してくれます。もう「採用担当者が良い人、優しくしてくれる」は差別化要素になりません。しかし、入社の決め手として「人の良さ」は今でも上位にランクインします。つまり、「採用担当者以外の社員」の態度や振る舞いが決め手になるということです。採用担当者以外の社員の言動は見落としがちですので、ここをしっかりフォローすれば差別化につながります。

多くの企業は、合説や会社説明会、座談会などに若手社員を登壇させています。しかしそれが逆効果となってしまっているケースが多発しています。せっかく人事担当者が頑張って良い関係性を築いても、他の社員が原因で選考を辞退してしまっては、これまでの努力が水の泡です。

社員を参加させる際は、事前打ち合わせが必須です。「会社説明会の開催目的」「ゴール」「なぜあなたに登壇してほしいのか」「あなたに期待すること」などをしっかり伝えたうえで、参加を確定させてください。また、参加に当たっての心構えや注意事項も一覧にして一つひとつ事前に説明する時間を取るのがベターです。

たとえば、「理念やビジョンの再確認」
「髪の毛、爪、スーツの皺、シャツ、襟、靴などは清潔感があるか、腕や足を組まない、ペンを回さない、上から目線にならない」
「専門用語は使わずに、小学生でも分かる言葉で伝える」
「学生の質問や発言には、笑顔でうなづき、相槌を打ちながら、話しやすい雰囲気を作ってあげる」
「学生の質問や発言は遮らず、最後まで聞いてから答える」
など、基本的なことですがきっちり伝えてください。

そして、会社を代表していること、あなたの立ち居振る舞いで学生への印象が決まってしまうこと、これらをしっかり理解してもらったうえで参加させてください。

「私もあんな風に働きたい!」「あの社員の方みたいな仕事をしたい!」と思ってもらえたら、志望度は一気に高まります。「採用担当者が良い人」は当たり前です。

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第105回 サービス業とBtoB企業の逆襲。

「2億円事件。」
大晦日の新聞朝刊の全面に、デカデカとその文字が打ち出されました。これはラーメンチェーン幸楽苑が出した広告で、広告の意味は、元日を休業することで、売上2億円を失う。それでも従業員のために休みます、という社長のメッセージでした。消費者ではなく、人材確保を意識した広告です。

幸楽苑同様に、人材確保へ向けて、各社様々な取り組みを行っています。「いきなり!ステーキ」で業績絶好調のペッパーフードサービスの一瀬社長は、週刊東洋経済の「新春合併特大号 2019大予測」のインタビューで、「入社後最初の3ヶ月は月給50万円を約束している。だから600人もの面接者が待っている」と答え、人材確保に自信を見せました。

BtoB企業の広告も目立ってきています。播磨エリアに主要拠点を持つダイセルは「化学で未来を変えるのダ!」のフレーズが印象的なCMや、駅のデジタルサイネージなど、一般消費者の目に付く場所での広告露出を強化しています。

姫路市の大和工業は、山陽電鉄「平松駅」を「平松駅 大和工業グループ最寄駅」に変更するネーミングクライツの取得をはじめ、地元女子バレーボールチームの「ヴィクトリーナ姫路」のトップスポンサー契約や、神姫バスのフルラッピング広告、サンテレビへのCM出稿など、広報活動を強化しています。本来一般消費者に向けて発信する商品が少ないBtoB企業の広告が増えた背景は、知名度アップによる人材確保を狙ったものと思われます。

大和工業は他にも、京都大と大阪大、神戸大の学生食堂で使われるトレーに広告を出したり、京都大学経営管理大学院の学生に250万円の奨学金を支給したり、とあの手この手で学生へのアピールを続けています。

優秀な人材の確保が、そのまま企業の競争優位性に繋がるこの時代、採用が不利だと言われているサービス業やBtoB企業が新しい取り組みを始めています。ぜひいろんな採用成功企業の事例を見て、その成功要因を抽象化し、自社に応用できるポイントを見つけ出してください。