第152回 人的資本情報開示は、義務じゃなくても積極的に。

2023年3月より、上場企業は有価証券報告書に人的資本情報開示の義務付けが予定されています。

社員の育成体制やリスク管理、研修の独自性など、人材への投資をどれだけしているかという情報の開示がまずは上場企業から義務化されます。この義務化により、投資家や金融機関、求職者の判断にも変化が表れると予想されています。

経営資源は「ヒト、モノ、カネ、情報」と言われていますが、会計上では、ヒトは資源ではなくコストになります。そして業績が悪化すれば真っ先に採用をストップしたり、従業員を解雇したりしてコストを圧縮し、経営を立て直すのが常套手段です。

また、金融機関が融資を判断する際や投資家が投資検討する際にも、ヒトはコスト扱いされ、融資の条件としてリストラを迫ることもあります。いくらヒトの資産性を説明しても、無形資産で数値に表れにくいヒトの価値を評価するのは非常に困難です。だからこその情報開示です。

今回義務化されるのは一旦は上場企業のみとされていますが、義務化対象外企業も、積極的に開示することで、融資や投資を受けやすくなると考えられます。また何より採用活動に有利に働きます。資本金や売上、経常利益、従業員数等で判断されがちな企業選択に、人的資本という新たな指標が入ることで、規模では劣っていても、従業員を資産と考えて大切に育ててきた企業は有利になります。

逆に規模は大きいものの従業員を駒として扱い、大切にしてこなかった企業は、学生や求職者からは、そっぽを向かれるようになるでしょう。

「義務化じゃないから」という理由で開示を控えていては、求職者からは「開示できる程の人材投資をしていない企業」や「情報を隠している」等といったネガティブな感情を抱かれるリスクもあります。もし開示することでネガティブな印象を与えてしまう場合は、今から人材への投資をはじめ、まずは自社の従業員満足度を高めるところからスタートしてください。

人材への投資が、これからの企業経営に最も大切です。